「ポルトガル料理」と聞いてすぐにイメージが浮かばない方もいるかもしれません。ヨーロッパ大陸の最西端に位置し、日本から1万1千kmを隔てたポルトガル。その料理には、実は日本との深いつながりがあるのだとか。
「ポルトガル料理は、ヨーロッパと大西洋岸の二つの異なる文化が融合した料理です。大西洋の文化という点では、ハーブや香辛料をよく使います。モロッコなどの料理に欠かせない『コリアンダー』を使うのも、ヨーロッパではポルトガルだけです。また、ポルトガルでは魚介類を多く食べますね。料理自体は、素材を活かしたシンプルで素朴な味わいが特徴です。」
魚介を豊富に使って、素材を活かしたシンプルな味、というとどこか日本料理を思わせます。
「ポルトガル料理は、日本人が“なじみやすい料理”なのではなく、“なじんでいた料理”といえると思います。というのも、『天ぷら』や『がんもどき』など日本の食卓でおなじみの料理も、ポルトガルに原型があると言われています。それが文化とともに日本に入って、日本料理として進化していったものなのです。歴史的背景を考えると、ポルトガル料理は、日本人の口に合って当たり前なのかもしれません。食べたことがない方にはぜひ試してみていただきたいですね。」
ポルトガルの食文化には他にも日本との共通点があるそう。実はポルトガルは、ヨーロッパで最もよくおコメを食べる国なのです。ポルトガル流おコメの食べ方とは?
「ポルトガルの年間のコメ消費量はEU諸国で1位です。今回ご紹介したカタプラーナだけでなく、炊き込みご飯や、『カンジャ』と呼ばれる鶏とおコメのスープなど、おコメ料理もたくさんあります。 その他にも、メイン料理のつけあわせにしたり、デザートにしたりと食べ方はバリエーション豊かです。ポルトガルで食べるおコメはカルローズのような中粒種と、粒の細長い長粒種がメインですが、つけあわせにするときは長粒種、リゾットや炊き込みご飯は中粒種といったように料理によって使い分けられていますね。」
今回、川口シェフに作っていただいた「魚介のカタプラーナ」は、専用の円盤型の銅鍋で作るポルトガルの鍋料理。水を加えず、調味料もコショウのみと、シンプルながらも食材の旨味が凝縮したお店の看板メニューです。
「カタプラーナは、ポルトガル・マデイラ島の代表的な料理です。中でもこの『魚介のカタプラーナ』は、新鮮な素材を使って、シンプルな味付けで仕上げるのが特徴です。カタプラーナ専用の銅鍋は圧力鍋の元祖と言われていて、調理の工程で水は一切加えず、魚介から出るだしとホールトマトの水分だけで10分ほど強火で蒸し煮して完成です。お店では、アサリやムール貝、海老やワタリガニ、イカなどの魚介をふんだんに使用しています。
日本で鍋料理といえばシメの雑炊が定番ですが、日本とよく似たポルトガルのおコメの食べ方を教えていただきました。
「実は、ポルトガルでも食事の最後におコメを食べるので、鍋に残ったスープで作るリゾットはカタプラーナには欠かせないんです。イタリア料理などでは、リゾットはメインディッシュよりも先に出てきますが、ポルトガル料理では、おコメは最後なんです。この感覚も日本とよく似ていますよね。」
以前はカタプラーナにも日本のおコメを使っていたという川口シェフ。カルローズで作るリゾットの特徴は?
「なによりも食感が違いますね。カルローズだと粘り気も出過ぎず、多少時間をおいてもほど良い食感が残るので気に入っています。鴨ご飯もお店の人気メニューのひとつですが、鴨の脂がおコメになじんでパラっと仕上がります。
そしてこのカルローズは、プロでも扱いやすいおコメなんです。炊くときにも細かな水加減が必要なくとても調理しやすいですね(笑)」
最後に、カタプラーナ&リゾットを自宅で作る際のポイントと、ポルトガル料理の楽しみ方を伺いました。
「カタプラーナは素材の味を活かした料理ですので、おいしく作るポイントはなによりも新鮮な食材を使うことですね。そしてリゾットを作るときのコツは、最初に炊くカルローズはおコメの食感を活かすため少し硬めに炊くことと、さらに具材を全部取り出してからおコメを入れることです。 これは、リゾットを作っている間に魚介に火が通り過ぎてしまうのを防ぐためです。
お店では一度鍋で炊いたカルローズを使っていますが、ご家庭でカルローズを使って作る場合には、パスタの要領で下茹でしてから使ってもいいでしょう。」
「ポルトガル料理は、基本的には家庭で食べるお母さんの料理の延長線上にあるものです。なので、肩肘張らずに、気軽に大勢で、ワイワイと楽しんでもらいたいですね。」
カタプラーナとは、ポルトガル南部アルガルヴェ地方の郷土料理。「圧力鍋の元祖とも言われる、金具でとめる専用の鍋を使って、具材を蒸し煮します。最後に残ったスープで作るリゾットはカタプラーナの定番。レシピ工程、材料ともにいたってシンプルで、家庭の食卓で囲むお鍋として、またホームパーティーにも最適です。
出身地の沼津でフレンチから西洋料理の世界に入り、その後都内のフレンチや地中海料理、イタリアンレストランで幅広い経験を積む。ポルトガル料理との出会いは、赤坂のカステロ・ブランコ入店時。その後系列のポルトガル料理店を経て、2008年からペローラ アトランチカのシェフを務める。